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深々と雪が、加藤村にも積もっている。
今年の冬。きり丸は、団蔵の家でアルバイトをしていた。今日は晦。明日は新年である。遠出をしていた団蔵も、人足たちと一緒に正月に合わせて一週間ぶりに村に帰ってきた。きり丸は、彼の無事な姿を垣間見て、気持ちが落ち着いたものの、年末の忙しさで話をする暇も無く、大晦日が慌しく過ぎた
風呂に入った後、きり丸は借りている部屋に戻った。客間なので、母屋とは少し離れている。風呂に入った後とはいえ、足先が冷たくなった。部屋へ戻ると、行灯に灯が点り、先に風呂に入った団蔵が居た。火鉢に炭を入れてくれている。部屋が暖かい。きり丸は団蔵にありがとうと言った。
きり丸が髪を乾かそうと火鉢の近くへ寄ると、団蔵がきり丸の腕を掴んで引き寄せた。
突然引き寄せられたおかげで、きり丸は団蔵の右の腿に跨るっている。羽織っていた半纏が肩からずり落ちたせいで、左肩に冷気を感じる。右肩と首の間に、団蔵の頭が押し付けられた。
「団蔵、ちょっと」
「きり丸」
無言で、骨が軋むほど抱きしめられた。きり丸は団蔵の頭を自由になる右手で触れた。ぱさついた髪を梳くと、団蔵の体温を感じる。冷えていた指先に温もりが点った。火鉢の近くに居る団蔵の隣には、団蔵の母親が敷いてくれたであろう布団がある。家の切り盛りだけでも猫の手も借りたいほどの忙しさなのに、きり丸にもさり気無い気配りを見せてくれる母君に、きり丸は感謝している。
どのくらい、団蔵はきり丸を抱きしめていただろう。
「何を考えているの」
団蔵が、顔をきり丸の首筋に押し付けたまま聞いてきた。
「団蔵の母さんは優しいなあ、と思っていた」
団蔵は意外そうな顔で、きり丸の顔を見た。
「あの行儀作法に五月蝿い母さんが?そんなこと言うのは、この家の中できり丸だけだよ」
というと、団蔵は喉の奥で笑い出した。団蔵の身体の振動が、きり丸に伝わる。
「何かおかしいか」
「だって、この状況でそんなことを考えているきり丸が可笑しいもの」
きり丸は顔を朱に染めた。団蔵から離れようとしたが、体格差のせいで布団の上に押したおされた。
白い布団の上に散らばる長い髪を見て、団蔵はきり丸の耳元で囁いた。
ふっと灯火が消える。
油が切れたか。
ぱちぱちぱち、と炭の燃える音が聞こえる。
耳朶に口を寄せれば、きり丸の咽喉から艶の在る声が漏れた。
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寸でで止めるのは、書けないからです。これぐらいだったら、表でもいいのかな??
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