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きり丸の項は、あんなに白かったか

きり丸の項は、あんなに白かったか。

 

連日の訓練と授業で、団蔵の思考回路は麻痺していたのかもしれない。

小春日和の今日。図書室の受付担当がきり丸で、団蔵は本草学の本を読みに来ていただけだ。

きり丸は、蔵書点検をしながら、図書室を足音も無く動き回っていた。

黒髪が歩くたびに左右に揺れる。

団蔵は、きり丸から眼を背けた。

 

 

5年にもなれば訓練、とってもほぼ実習だ。十里離れた山里の華厳寺からの密書を一山越えた和泉の出城まで馬借の恰好をして一週間かけて敵の捜索を断ち切り、無事にたどり着けたかと思ったら、矢を背にして城中を走り回ったり、兵糧を確保したりした。学園に帰ってきたのは、ほぼ3週間ぶりだった。団蔵に同行したのは、虎若、乱太郎の二人だ。帰ってきた途端、乱太郎は3日ばかり寝込んでしまった。虎若も団蔵も、体力には自信があったものの、流石に身体の芯から疲れ果ててしまったようで、ここ数日、ぼんやりしている。

授業も遅れた分を取戻さないといけない。補習が続いていた。

困ったことに、団蔵の苦手な薬草学の授業では、手順を間違えてしまって、薬草を無駄にしてしまった。貴重な薬だったのだろう、新野先生が静かに「レポート一巻、来週までに。」と、仰った。

 

漢文で書かれた『本草目録』に眼を通す。

読み下せない。文字が頭に入ってこない。

黄ばんだ紙の上の、すらりと伸びた草の絵が首筋と重なる。

堅く眼を閉じた。

何も見ないように。何も聞こえないように。何もしないように。

 

だが、団蔵はきり丸の姿を追うことが、止められない。

足音も無いわけではない。

耳を澄ませば、足を床に着く音が微かに聞こえる。

微かな衣擦れの音がする。

紙に筆で文字を書く音がする。

小声で何かをつぶやく吐息が聞こえる。

 

きり丸が、団蔵の目の前で止まった。

 

「どうかしたのか」

 

大丈夫かと、肢体を曲げて、机に白い手を置き、団蔵を覗き込む切れ長の眼を持つ顔。

綺麗だと思ってしまう、彼の姿。

朱い唇。

 

 

団蔵は、手をきり丸の顔に伸ばし、唇を合わせた。



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